ACE教育講演会
「21世紀を切り拓く,北海道のテクノロジカル・リテラシー教育」
〜海外の情報教育環境からの報告〜

講演議事録(1999年1月11日実施)

はじめに

【武田】自治体や教育委員会などがネットワークや情報機器の整備を進めているが、なぜいまになってこういった動きが活発になっていったか。冷戦後の社会構造の変革に伴って、単純に国単位だけで考えることが難しい問題が増えてきたことで、民の力が注目されるようになってきた。民同士の情報手段がネットワークだ。ネットワークがひとを結びつけることが出来る。
 日本以外の情報の環境がどのようになっているか、海外の視察をしてきたお二人のお話を聞くことにした。
 社会教育総合センターの桜庭さんは社会教育の現場で情報化に取り組まれている。
 道都大学短期大学部の野口先生はCiscoのネットワーキングプログラムなどを中心に、情報教育の分野でネットワークがどのような役割を果たすかを推進されている。

□「フランス,ベルギー,ドイツの教育事情」

【桜庭】10月の末から11月の頭まで、世界青少年育成協会のEU交流ということで回ってきた。学校と公的機関を歩き、社会教育とシステム関連について見てきた。大まかなところはWebのページを見ていただければわかるようになっているが、そこでは見ることの出来ない「印象」の部分などをお話ししたい。
 東西ドイツの統一やEUの動きなどによって、公的な機能がいろいろと移行している途中である。
 ヨーロッパは地続きで往来自由だが、国同士のプライドなどは厳然と存在しているし、気候もそれなりに違う。気質もそれぞれだ。
 経済を中心に、欧州は先行き不安で混沌とした部分が取りざたされる。移民の大量流入と失業率の増加で、社会教育の役割も重要視されている。
 欧州は幾度かの戦争の歴史を社会教育に生かしている。また、サッカーなどのスポーツも意義付けをして取り入れている。

(ドイツ、フランスの教育システムの説明)

 日本では方向性は見えているが、さざ波、という雰囲気だが、ヨーロッパでは方向性もはっきり見えていて、それを追い風にしてしっかりと進んでいる。根底に生きているのはヨーロッパ人のアイデンティティという感じだ。

□21世紀を見据えたアメリカのテクノロジー教育

【野口】ここ2カ月あまりの間に、ネットワーク教育について日本でもいろいろと動きがあったようだが、視察に行く前後には新学習指導要領案が発表になり、その中にも様々な言い方で、今回視察してきたような内容が盛り込まれていた。
 2001年までには日本の小中高等学校がインターネット接続をする、ということに計画が前倒しになったが後二年間でなにが具体化できるか、協力して進めていきたい。
 サンフランシスコとデンバーで、私立公立取り混ぜて視察してきたが、結論からいうと、日本の取り組みは10年遅れているという印象を受けた。各校を訪れるとその度にびっくりさせられるような取り組みが行われている。
ディスカッション

【武田】国からも予算がある程度ついて、いままでは「お金がなくて出来ない」だったが、これからはそういったいいわけが通用しなくなる。これから現場はどう変わっていくのか。
【中央小 砂田】現場では総合学習などにおいて心配事の方が強くなってきている。いろいろとこどもの側に要求が出てくれば教員の側にも意欲が出てくる。もちろん単独ですごいことが出来るわけではなく、様々な方々のサポートが必要になってくる。
【標茶中 村田】去年からネットワーク環境が町内にはいってきたが、作り方としてはメンターを育てていくという似たような環境を作り出している。アメリカは一度取り組みをはじめると、ものすごい勢いで実現に向けて進んで行くが、日本では様々な組織がバラバラの方向を向いている。それ自身が悪いことではなく、良いように作用することもあるのだが、もっと家庭なども含めていろいろなところを巻き込んでいく努力をすべきではないか。

 情報の流通形態が変わっていくことで、仕事の在り方も変化していく。それに適応した教育を進めていくことが着目されている。
 いわゆる平板なコンピュータ教育ではなく、「テクノロジー教育」という言葉を使っているが、倫理観などネットワークに付随する様々な問題を取りざたすることで、新たにネットワークに携わる人材を育成していくことを考えている。
 コンピュータ教室にコンピュータがある、という感じではなく、普通の教室をはじめ、様々な専門授業をする教室にすべからくコンピュータがあって、ネットワーキングされている。語学などはCD-ROMの教材を使っていたりする。
 また、生徒の問題解決能力というのを非常に重視していて、専用のシステムを使ってフローチャートに表された学習到達点に基づき、生徒自身が自分たちの学習スケジュールを実践していく。また、それに伴ってプレゼンテーションの能力が重視されている。
 一方、教師のためのテクノロジー教育も重要な要素で、やはり様々な機器を訓練なしで指導できる人間が最初からいるわけではなく、そういったひとを要請する必要が出てくる。また、メンターと呼ばれる先導役をつくって、先端的な技術の導入を推進していくことにも力を注いでいる。

(写真の説明)(ビデオの説明)

 コンピュータが特別扱いされておらず、自然に教室にとけ込んでいる状況をみて、「コンピュータを学ぶ日本、コンピュータと学ぶアメリカ」という実感を強くした。
 単なるコンピュータ教育に終わらない、今後のテクノロジー教育をいろいろな人間の力を合わせて進めていかなければならない。




開催概要

主 催:
 教育とコンピュータ利用研究会(ACE)北海道支部
 情報と教育フォーラム北海道

後 援:
 教育とコンピュータ利用研究会(ACE)
 ネットワークコミュニティフォーラム'98(NCF'98)

日 時:
 平成11年1月11日(月)14:00〜16:30

会 場:
 札幌市ネットワークプラザ InterCity OROPPAS
(札幌市中央区北1条西3丁目 第百生命ビル5F Tel.011-211-3435)

次 第:
 1.主催者挨拶
    教育とコンピュータ利用研究会北海道支部長
    北星学園女子短期大学   専任講師   武田 亘明

 2.講演1 「フランス,ベルギー,ドイツの教育事情」
    道立社会教育総合センター 社会教育主事 桜庭  望 氏

 秋田県大館市出身。牧場主を目指して北海道の大学へ。高校教員として,化学,地学等の教科担当後,1992年より社会教育主事の道へ進み,上湧別町派遣を経て現在に至る。BBSホスト運営経験をバックボーンとする。オホーツク海の流氷の様子のインターネット画像中継などにも尽力した。
 今回の講演は,1998年にEU3カ国(フランス,ドイツ,ベルギー)への教育視察(EU Seminnar)によるレポートである。

 3.講演2 「21世紀を見据えたアメリカのテクノロジー教育」
    道都大学短期大学部    助教授    野口 光孝 氏

 札幌市出身。1977年東京理科大学理学部卒業後,民間企業でシステム開発,運用管理などに従事。1991年より道都大学短期大学部に勤務し情報教育を担当している。研究テーマは「マルチメディアを活用した学習環境の構築」。日本教育工学会などに所属。昨年NASAの教育プロジェクトであるCOTFの視察,研究に取り組んだ。
 今回の講演は,1998年11月に米国サンフランシスコ,デンバーの教育機関を視察した際のレポートである。

 4.ディスカッション
  「北海道のテクノロジカル・リテラシー教育のこれから」(司会:武田)

参 加:
 参加無料。事前申し込みは必要ありません。直接会場にお越しください。

問い合わせ先:
 教育とコンピュータ利用研究会北海道支部事務局
  TEL.011-210-5506 FAX.011-210-5532(北海道新聞社情報開発本部 内)
  E-Mail:aoyagi@hokkaido-np.co.jp