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T 研究のねらい
プラモデル作りのように詳しく書かれたマニュアルが日常生活において氾濫している昨今,生徒は材料がほとんど加工され,作業手順も決められているような場合には器用に対応できる。しかし,自らが考えてものを作り上げる活動の経験はあまりなく,苦手である。
そこで,あえて加工されていない「素材」の中から,自分の考えている作品に適した材料を選び出し,様々な加工方法や接合方法から,何をどのように製作に取り入れるか思考し,自己修正させながら製作させることを重視した。
生徒の多様な考えや発想をできる限り取り入れ,作品の完成を目指すという流れを,領域全体の「学習材」としてとらえた。
U 研究の内容と方法
今回の研究のポイントは,1つ1つの授業の中だけでなく,金属領域全体を学習材としておさえていることである。
1.机の上で使える金属製品で,自分の作りた い物を決め,構想図(スケッチ)をかかせる。
2.構想図に描かれたものが製作可能なのかを, 以下の3つの項目について考えて練り直させ る。
(1) 加工方法(ビデオにより紹介する)
(2) 接合方法(作品や部品の実物を提示,説 明する)
(3) 金属材料(様々な種類・形状の材料を紹 介する)
3.上の3つの項目それぞれから,自分の作品 に適した加工方法,接合方法,材料を選択さ せる。
4.修正を加えた上で構想図を完成させる。
5.製作過程の中で,加工・接合方法の自己修 正をしながら,作品を完成させる。
V 実 践
1.領域全体の指導計画
作りたいもの・使用目的を考える | 0.5 時間 | ||||||||||
構想図(スケッチ) | 1.5時間 1.5時間 | ||||||||||
<3つの中でそれぞれ選択> 加工方法 接合方法 金属材料 (ビデオで紹介)(見本で説明)(展示・説明) | |||||||||||
構想図完成 | 0.5時間 | ||||||||||
部品図・材料表・工程表 | 1 時間 | ||||||||||
材料配布 | 1 時間 10時間 | ||||||||||
製 作 |
教材提示装置を用いて接合方法の説明
2.実践指導案
技術・家庭科学習指導案
日 時 平成9年11月18日(火)1・2時間目
生 徒 3年2組 男子18名女子19名計37名
指導者 札幌市立あいの里東中学校
教諭 坂 本 健
1.領域名 金属加工
2.題材名 「机の上で使える金属製品を作ろう」
3.本時の目標 ・作品に適した加工方法と接合方法を考え設計できる。
・自分の考え方を大切にし,課題の解決を目指すことができる。
4.本時の展開(2時間続き)
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5.評価 ・構想図に,より適切な加工・接合方法が記入されているか。
・自分の考え方を大切にし,課題の解決を目指すことができたか。
3.評価について
生徒の作品が多岐にわたるため,製作の過程 を重視した評価が必要となる。次に,評価項目 の例を箇条書きにしてあげておく。
(1) ビデオまとめのプリント
(2) 構想図
(3) 部品図
(4) 材料表
(5) 工程表
(6) 材料加工の正確さ
(7) 自己評価カード
(8) 自己修正の内容
(9) 作品の仕上がり
(10)作品の完成度
以上の項目それぞれについて,日常の授業の中 で細かく評価していく。
W まとめと今後の課題
1.研究のまとめ
自分の作りたいものを生徒の自由な発想に任せて設計させ,その作品の完成を目指して材料加工方法,接合方法の3つの項目から,それぞれ作りたい作品に適したものを選び出し,製作するというのが,今回履修させた金属領域全体の形である。自分が作りたい作品の構想を練り,提示された情報の中から,生徒自らが必要な情報を選び出し活用していくことは,「情報活用能力」を育てることにつながる。
また,製作の過程で,選択した方法が自分の作品に適さなかったとしても,自己修正しながら作品の完成を目指すことは,キット的な作品の製作と比較すると,より「考える力」を培うこととなる。
自己修正や教師の支援を受けながらも,自分の考えていた作品を作り上げることで成就感や達成感を味わうことが,「学びへの心を育てる」ことにつながっていく。
2.今後の課題
生徒自ら考えて,方法などを選択し製作していく課題解決的学習の流れとしては良かったと思われる。しかし,生徒の発想をできるだけ取り入れようとするあまり,ビデオの中で提示している加工方法や接合方法,材料の種類が多すぎ,工具の構造や材料の特性など,理論的な事項を充分に理解した上で採用していたかがどうかが疑問である。もう少し,選択肢を絞り込むことによって理論的な部分が理解されやすくなり,それにより作品の完成度は高いものになっていくであろう。また,生徒の活動範囲が広がる反面,教師の個々への指導や製作時の目配りが行き届きにくくなる。製作に入った場合には,その点を解消するために,同じ加工工程や接合方法を選択した者同士のグループを作ることによって効率化を図ったり,T・Tを行うことによって,よりきめの細かい指導ができると思われる。
生徒作品
資料1 「材料の一覧表」
資料2「構想図」
資料3 「自己評価カード(裏面)」